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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)4746号 判決 1958年2月24日

原告 石塚鶴子

被告 本郷重太郎 外一名

主文

一、東京都豊島区池袋二丁目九百六十九番の四十、宅地六十五坪七合八勺が原告の所有であることを確認する。

二、被告等は原告に対し、右土地の所有権移転登記手続をせよ。

三、被告本郷重太郎は原告に対し、右土地上の木造トタン葺平家住宅一棟建坪八坪及び木造トタン葺平家木材置場一棟建坪二十四坪を収去して右土地を明渡せ。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として

一、訴外池袋二業土地組合(以下組合という)は、池袋二業許可地内の業者(池袋二業組合員)を組合員としその出資を以て、右土地五千余坪を所有者訴外仙台不動産株式会社(受託者仙台信託株式会社)から共同購入することを主たる目的として、昭和十年一月成立した民法上の組合であつて、組合契約をもつて、組合員は毎月営業高に応じて右土地の購入積立金を組合に出資し、組合が右訴外会社より前記土地所有権を取得した後組合員に対してその営業及び居住用建物の敷地の割当をなした時は右訴外会社から直接組合員に対してこれが所有権移転登記手続をなすべきことと定められていた。

二、組合は昭和十年十一月二日訴外仙台信託株式会社より、右土地を代金四十万円で買受け、昭和十九年末右売買代金を完済してその所有権を取得した。

三、原告は昭和十四年四月東京都豊島区池袋二丁目九百六十九番地の二所在の待合「清乃」(建物の敷地は三十五坪七合八勺)の所有者訴外内藤きよ乃から、右待合の営業権、組合への加入権及びその持分の譲渡を受けて組合員となり、昭和二十年四月十三日戦災によつて罹災するまで同所で営業を続け、前記出資義務の履行を完了し、組合から右土地の割当を受け得べき権利を取得した。

又原告は昭和二十年十二月組合を介して組合員林正義から同人が組合から割当を受け得べき権利を有していた前記三十五坪七合八勺に隣接せる土地三十坪についての右権利の譲渡を受けた。よつて原告は組合から合計六十五坪七合八勺(本件土地)の割当を受け得べき権利を有するにいたつた。

四、組合は昭和二十年十一月総会の決議によつて各組合員に対する前記五千余坪の割当手続の一切を役員会に委ね、右役員会は同年十二月末これが割当てをなし、原告に対し前記六十五坪七合八勺を割当てたので、原告はこれによつて本件土地の所有権を取得した。

そして本件土地は昭和二十一年十一月五日分筆されて東京都豊島区池袋二丁目九百六十九番の四十、宅地六十五坪七合八勺となつた。

五、各組合員に割当てられた土地のうち罹災を免れた組合員及び建物を再建した組合員に対する分については前記訴外仙台不動産株式会社から直接右組合員に所有権移転登記手続をなしたが、その他の組合員に対する分については整理の都合上一応当時の組合長であつた被告山本及び組合成立当時の組合長であつた被告本郷名義に登記し、被告両名から更めて当該組合員に所有権移転登記手続をなすこととし、本件土地については昭和二十二年三月二十六日被告両名名義に所有権取得登記がなされた。そこで原告は被告両名に対してこれが所有権移転登記手続を請求したが、被告両名は原告の所有権を争つてその手続をしない。よつて原告は被告両名に対し、主文第一、二項同旨の判決を求める。

六、被告本郷は何等の権限なく本件土地上に主文第三項記載の各建物を所有し本件土地を占有している。よつて原告は所有権に基いて被告本郷に対し、主文第三項同旨の判決を求める。

と述べ、

被告両名は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として

一、組合が、主張の日時主張の出資を以て主張の事業を営むことを主たる目的として成立した主張の如き組合であること、右組合契約において組合員の出資義務が主張の如くであること、組合が主張の土地の所有権取得後組合員に対して主張の如く割当て登記手続をなす定めであつたことは認める。

二、組合が主張の日時訴外会社より主張の土地を買受けたことは否認する。

三、原告が主張の日時組合員となり、組合に対して主張の土地三十五坪七合八勺についての出資義務の履行を完了したことは認めるが、原告が主張の頃主張の土地三十坪につき主張の権利を譲り受けたことは否認する。

四、主張の日時組合の総会の決議によつて組合員に対する土地の割当手続の一切を役員会に委ねたこと、本件土地について整理の都合上主張の日時被告両名名義に所有権取得登記がなされたこと、本件土地上に主張の建物が存在していることは認めるが、役員会が原告に対して主張の土地を割当て原告が右土地の所有権を取得したこと及び右建物が被告本郷の所有であることはいずれも否認する。

五、前記土地五千余坪は被告両名及び訴外林正義、同松本市太郎、同人見辰造、同福田永一郎、同八木徳重、同川島央三、同伊藤亀太郎の九名が地上に建物を所有し営業をなすことを条件として組合員に割当て取得させるために買受けたものである。而してこれが割当手続は組合の役員会に一任され、右役員会は前記条件を充たした組合員に対して割当をなし、割当を受けた組合員が積立金、賃貸料金、権利金等を組合に支払つて右土地所有権を取得することと定められていたものである。しかるに

(1)  原告は池袋二業組合が昭和二十一年五月中解散したために右組合の組合員たる資格と本組合員たる資格とを喪失したので本件土地の割当を受ける資格を失つた。

(2)  原告は本件土地上に建物を所有せず、かつ被告両名の催告にも拘らずこれが再建に着手せず又営業の準備をもしないから前記割当の条件を充たしていない。

(3)  原告は組合に対して本件土地の割当を受けるための代金を完済していない。

以上の次第で組合は原告に対して本件土地の割当をしていないから、原告は本件土地の所有権を取得せず、被告等に対してこれが所有権移転登記を請求する権利がない。

仮りに原告主張の如く組合が前記土地五千余坪の所有権を取得したものであるとしても前同様の次第で原告は本件土地の所有権を取得していない。

六、仮りに組合が原告に対し本件土地の割当をなしたとしても、原告は前記催告に拘わらず同土地に建物を築造し営業再開の準備をしなかつたから組合は昭和二十六年九月十八日原告に対し右割当を取消した。よつて、原告は本件土地の所有権を取得しない、と述べ

原告は被告両名の右主張に対して

池袋二業組合が主張の日時解散したことは認めるが、土地の上に建物を所有し営業をなすことが土地割当の条件であつたこと組合員が主張の如き代金の支払いをなしたとき割当土地の所有権を取得する定めであつたことは、いずれも否認する。

仮りに建物の所有及び営業が土地割当の条件であるとしても原告は本件土地の上に建物の建築準備をなしているので本件土地の割当を受ける資格を有する。

と述べ、立証として

(一)原告は、甲第一乃至第四号証、第五号証の一及び二、第六乃至第八号証を提出し、証人伊藤亀太郎、同小島禎三郎及び同影山一次の各証言を援用し、乙号各証の成立を認め、同第五号証の二を利益に援用すると述ベ

(二)被告両名は、乙第一乃至第四号証、第五号証の一乃至三を提出し、証人人見辰造の証言及び被告山本幸太郎本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認め、同第四号証を利益に援用する。と述べた。

理由

一、組合が、池袋二業許可地内の業者(池袋二業組合員)を組合員としその出資を以て右土地五千余坪を所有者訴外仙台不動産株式会社(受託者仙台信託株式会社)から共同購入することを主たる目的として、昭和十年一月成立した民法上の組合であることは当事者間に争いない。

右の事実に成立に争いない乙第一号証、証人伊藤亀太郎、同人見辰造(一部)の各証言並びに被告山本幸太郎本人尋問の結果(一部)によれば、組合が昭和十年十一月二日組合員たる被告両名訴外林正義、同松本市太郎、同人見辰造、同福田永一郎、同八木徳重、同川島央三及び同伊藤亀太郎の計九名を代表者として、訴外仙台信託株式会社から前記池袋二業許可地五千余坪を代金四十万円で、買受ける契約を締結したこと、そして組合は組合員の出資金を以て右売買代金を逐次支払い遅くも昭和十九年末頃までに完済して訴外仙台不動産株式会社より前記土地の所有権を取得したことが認められ、これに反し右土地を前記訴外会社より買受けたのは組合ではなく前記被告両名外七名である旨の証人人見辰造の証言部分並びに被告山本幸太郎本人尋問の結果の一部は措信し難く、前記乙第一号証には被告主張の九名が前記信託会社と右土地売買契約を締結した旨の記載があるけれども、冒頭記載の各証拠によれば、右の記載は前記九名が組合を代表する意味においてなされたに過ぎないものであることが明かであるから、これをもつてしても前記認定を左右し難く、他に以上の認定を覆すべき証拠はない。

二、前記組合契約において、組合員は毎月営業高に応じて右土地の購入積立金を組合に出資し、組合が右土地所有権を取得した後組合員に対してその営業及び居住用建物の敷地の割当をなした時は前記訴外会社から直接組合員に対してこれが所有権移転登記手続をなす定めであつたこと、原告が昭和十四年四月組合員となり、東京都豊島区池袋二丁目九百六十九番地の二所在の待合「清乃」の敷地三十五坪七合八勺(本件土地の一部)について組合に対する前記出資義務の履行を完了したことは当事者間に争いない。そして成立に争いない乙第二号証(池袋二業土地組合規約並に細則)の規約第十九条は組合が買入れたる土地は各組合員の出資額に応じ組合員の従来の営業並びに居住に使用する土地を優先的に割当をなすべき旨規定し、証人影山一次の証言によれば、原告が組合員となつてから昭和二十年四月十三日の戦災によつて罹災するまでの間右三十五坪七合八勺の土地において営業をなしていたことが明かであるから、原告は組合に対して右三十五坪七合八勺の土地の割当を受くべき権利を取得したものと認むべきである。

また証人伊藤亀太郎、同人見辰造の各証言並びに被告山本幸太郎本人尋問の結果を綜合すると、組合員の中には組合が購入した土地の割当を辞退する者が出て来たので、組合はかゝる組合員の割当を受くべき権利を土地の追加割当を希望ずる組合員に譲受けしめるようにしたこと、組合員林正義が割当を受くべき権利を有していた前記三十五坪七合八勺に隣接する土地六十坪についてこれが割当を辞退したことが認められ、成立に争いない甲第二号証、証人伊藤亀太郎、同小島禎三郎、同影山一次の各証言によれば、原告及び訴外小島が右土地六十坪を折半し各三十坪づつ割当を受くべき権利の譲渡を受けたこと、そして原告は昭和二十年十二月六日組合に対して金五千円(内譲受代金は多くとも金四千二百円である)を支払つて右譲受代金を完済したことが認められ、右認定に反する証人人見辰造の証言並びに被告山本幸太郎本人尋問の結果は措信し難い。

かくて、原告は組合に対して、前記三十五坪七合八勺と右三十坪との合計六十五坪七合八勺(本件土地)の割当を受くべき権利を取得した。

三、被告等は、池袋二業組合は昭和二十一年五月解散したため原告は右組合の組合員たる資格及び本組合組合員たるの資格を喪失し、従つて土地の割当を受くべき資格を失つた旨主張し、池袋二業組合が右日時に解散したことは当事者間に争いない。そして前記乙第二号証の規約第二条は本組合は指定地内の営業者を以て組織すると規定し、細則第三条は本組合員は指定地内業者にして池袋二業組合員に限ると規定するから、組合員として加入し得べき者は指定地内の業者にしてかつ池袋二業組合員に限ることは明かであるけれども、同号証には、規約第五十七条に組合員が死亡その他不可抗力と認むべき事由によつて廃業する場合はその旨組合長に届出づべしと規定するだけで、組合員が後に池袋二業組合員たるの資格を喪失した場合については何等規定するところがなく、他にかかる場合について別段の定めあることを認めしむべき証拠はない。しかして一般に組合契約において、組合員の資格について規定している場合においても、組合員が右の資格を喪失した場合に関して何等の定めがない以上は組合員が右規定に合致しなくなつたからといつてそれだけで当然に組合員たる資格を喪失するものではなく、民法所定の脱退の手続を踏むに非ざれば組合員たる資格を喪失するものではないものと解せられる。それ故原告が池袋二業組合員の資格を喪失したから当然本組合員たるの資格を喪失したとする被告等の主張は失当であり、他に組合員資格喪失について何等の主張立証のない本件においては、原告は依然組合員たるの地位を保有し、組合員として本件土地の割当を受くべき権利を有するものといわなければならない。

四、組合が昭和二十年十一月総会の決議によつて各組合員に対する前記五千余坪の割当手続の一切を役員会に委ねたことは当事者間に争いない。被告等は、組合員に対する土地の割当は組合員が土地の上に建物を所有し営業をなすことを条件とする旨主張し、証人人見辰造と被告山本幸太郎とはこれに符合するが如き供述をしている節もあるけれども、右両名の供述を仔細に検討すると、前記土地は組合員の営業並びに居住用に使用する目的をもつて購入したのであるから、これが右の用途に使われずに組合員以外の者に転売せられることをおそれ、これを防止しようとして、役員会において組合員が地上に建物を建てて営業をなす可能性ありと認めた場合に初めてその組合員に割当をなすこととしたというに過ぎないものであることが認められる。このことは後に認定する如く役員会が原告に対し本件土地の割当をなしたことによつても明かである。しかも、前記乙第二号証には、規約第十九条に組合が買入れたる土地は各組合員の出資額に応じ組合員の従来の営業並びに居住する土地を優先的に割当て、もし、割当を受けた土地が営業並びに居住用として過不足あるときは、過分の土地は他の組合員に売渡し、不足する者はこれを買受けるべき旨規定するのみで、被告等主張の如き事項を割当の条件とする旨の規定のないところからみても、被告等主張の事項が土地割当の条件であつたものと認めることはできない。そして、証人影山一次、同小島禎三郎の各証言によれば、原告は本件土地に建物を建てて営業ないし居住用に供しようとしていたことが窺われるから、原告は前記役員会の割当方針にも合致していたものというべきである。

そして証人伊藤亀太郎、同小島禎三郎、同影山一次、同人見辰造(一部)の各証言によれば、前記役員会は原告に対して昭和二十年十二月末頃図面をもつて本件土地の割当をなし、翌昭和二十一年五、六月頃現地についてこれが境界を定め、原告がこの境界線上に檜の苗木を植えたことが認められ、右認定に反する証人人見辰造の証言の一部並びに被告山本幸太郎本人尋問の結果は措信しない。

五、原告が当初から割当を受くべき権利を有していた前記三十五坪七合八勺についての出資義務の履行を完了したことは先に認定したとおりであり、右出資が土地購入資金と土地賃貸料とであることは前記乙第二号証によつて明かである。そして証人伊藤亀太郎の証言によれば、原告はこの出資義務の履行を完了したことによつて右土地代金の支払を了したものであることが認められる。また、乙第二号証によると、原告が割当を受くべき権利の譲渡を受けた三十坪については原告は一坪あたり金五円の割合による権利金を支払うべきものであることが認められるところ、原告が右権利の譲渡を受けるにあたつて譲受代金四千二百円の外に金八百円の支払をなしたことは前認定のとおりであり、この事実に証人影山一次、同小島禎三郎、同伊藤亀太郎の各証言を綜合すると、原告は右権利金を支払つて右土地代金を完済したことが認められる。

被告等はすべての土地について権利金の支払を要する旨並びに原告は土地代金を完済していない旨主張し、証人人見辰造と被告山本幸太郎とはこれに符合する供述をしているけれども、右は前記各証拠に照して信用できない。

そうすると組合が原告に割当てた本件土地の所有権移転の時期について他に別段の定めのあることの認められない本件においては、土地代金を完済した後に先づ図面によつて土地の割当をなしかつその後現地に臨んでこれが境界を定めたこと前記のとおりである以上、本件土地の所有権はおそくとも右境界を定めた昭和二十一年五、六月頃に組合から原告に移転したものと認めるのが相当である。

六、被告等は、原告が被告等の催告にも拘わらず本件地上に建物を築造し営業再開の準備をしなかつたので、組合は原告に対し前記割当を取消したから、原告は本件土地の所有権を取得しないと主張し、証人人見辰造の証言に成立に争のない甲第四号証を参酌すると、組合役員であつた被告本郷は、原告が組合役員の再三にわたる催告にも拘わらず本件土地上に家屋の建築をしないとて、昭和二十六年九月十八日附内容証明郵便をもつて原告に対しさきになした右土地の割当を取消す旨の通告をなしたことを認めることができるけれども、地上に現実に建物を所有することが土地割当の条件ではなく、しかも、この通告前に原告が本件土地の所有権を取得したこと前認定のとおりであるから、右通告は原告の本件土地所有権取得に何等の影響を及ぼすものではないと考える。

七、本件土地が昭和二十一年十一月五日分筆されて東京都豊島区池袋二丁目九百六十九番四十宅地六十五坪七合八勺となつたことは、成立に争のない甲第一号証によつて明白である。

八、そうすると原告の被告等に対して本件土地の所有権の確認を求める請求は理由があり、本件土地につき被告両名名義に所有権取得登記がなされていること、右登記は単に整理の都合上なされているものであることは当事者間に争がないから、被告両名は原告に対して右土地につき所有権移転登記をなす義務がある。

九、次に本件土地上に木造トタン葺平家建住宅一棟建坪八坪及び木造トタン葺平家木材置場一棟建坪二十四坪が存在することについては当事者間に争いなく、証人伊藤亀太郎、同小島禎三郎の各証言によれば、右建物はいずれも被告本郷重太郎の所有であることが認められ、他にこれを覆すに足る証拠はないから、被告本郷重太郎は右土地の所有者たる原告に対して、右建物を収去して右土地を明渡す義務がある。

十、以上のとおり原告の被告両名に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥羽久五郎 柳川俊一 柴田久雄)

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